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暖かいわけでも寒いわけでもなく。雨は降っていないけれど晴れ間なんか射していない曇り空。 そんな休日だったからか特に出かける気にもならなかったけれど、奴からの着信によってそれは一変した。 電話に出るとしばらく続いた沈黙。イタズラかと顔をしかめた。けれどそれならば一定間隔のある洟をすする音はなに。 ねえどうしたの、と聞くとぽつり、ちゃん。と小さく声がした。ああ泣いている。 奴が泣くなんてどうしたことか。名前を呼ばれた後にいくつか問いかける形で話をしたが、まともな会話が成り立たない。 唯一返事があったのは今の奴の居場所と、来て、という催促だった。
かなしいひとへ
「なぐさめてよ、ちゃん」 そして現場に到着しての第一声が、これだ。もう涙は見えないことに少し安堵はしたけれど、 突然のこの哀願に対して何て言葉をかけようか、どんなふうに接すればいいのか。 なぐさめてと言われても何をすればいいのか。わからない。そもそも私の思う慰めと、奴の思うなぐさめに違いがあったなら。 千石の日常の行動から考えて、千石がそういう意味で言ってるんだとしたら。それこそ臆病な私からは何もできない。 そこまで考えて、うつむいている千石が目に飛び込む。ばかな私、こんなときに何を考えているの。 私は正直に言った。 「ごめん、どうしたらいいか、わかんない」 「あーそっか、じゃあ」 こうして、と呟いて、私の頭を撫でる。やさしく、やさしく。意外だった。千石がこんなことを望むなんて。 それはどちらかというと私が考える慰めに近かったので一安心といったところか。 返事代わりにうなずくと千石が手を戻す。それを追いかけていくように私も手を伸ばした。 ああそういえば千石に頭撫でられたのなんてはじめてだ。なんだかくすぐったくて気持ちよかった。 それから千石の頭を撫でるのだって、はじめて。 オレンジ色の髪の毛は、やわらかいのかな。すごい色してるからやっぱり痛んでるのかも。 ゆっくりと手を伸ばしながらそんなことを考えていた。私はすっかり油断していたのだ。 「きゃっ」 伸ばした手首をとられ、引っ張られて、そのまま、体はバランスを崩す。前のめりになっても倒れなかったのは、そこに千石の胸があったから。 何が起こったのかは割合すぐに理解できた。だけどその胸を押して離れることができなかったのは、 背中に千石の腕が回されているから。それから、顔を上げると小さく笑った千石の顔に魅せられて、 その細く笑う目と目があったしまったから。 「ちょっと、千石」 「だって正直に言ったらちゃん逃げちゃうでしょ」 「ねえ、はなして」 「やだ」 嫌がるほどにその腕の強さは増して。ぎゅう、と強く胸を押したつもりでも、私が抱きしめられている事実は変わらない。 というよりも、本当はこのままでいてもいいんだ。私だって、千石に抱きしめられていたいんだ。 でもこんなやり方されちゃ、不本意。だって千石はあの娘とうまくいかなかったから落ち込んでたんでしょう。 「やーらかい」 それは千石の手が骨張っているだけで、あたしは全然柔らかくなんかない。 あの娘の方がずっとずっと、柔らかいよ。 だからもうやめてよ。そんなに優しく抱きしめないで。髪を撫でないで。期待しちゃう前に、やめてよ。 「へへ、頑張れそうな気がしてきた」 暖かいわけでも寒いわけでもない。でも私の頬だけは確かに熱かった。 |